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東京地方裁判所 平成4年(特わ)401号 判決 1993年4月22日

本籍

広島県呉市溝路町九六番地

住居

東京都武蔵野市中町三丁目一七番一五-七〇五号 吉祥寺ハイム

会社顧問

碓井優

昭和一〇年五月七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人横井治夫、松嶋英機、綾克己、関口博各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金七〇〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、コンピューターソフト開発を目的とする株式会社コスモ・エイティの代表取締役として同社の経営に従事するかたわら、営利を目的として継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、有価証券売買を他人名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が四億八二五一万二七九六円(別紙1の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六二年三月一三日、東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が一〇一九万七二五〇円でこれに対する所得税額が一二万六六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成四年押第七四六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三億二二四九万八八〇〇円と右申告税額との差額三億二二三七万二二〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が一億九二五〇万二六六四円(別紙3の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、昭和六三年三月一五日までに、前記武蔵野税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで、そのまま右法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分における所得税額一億〇五四九万七一〇〇円(別紙4の脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六三年分の実際総所得金額が五一一五万三一〇〇円(別紙5の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年三月一五日までに、前記武蔵野税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで、そのまま右法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分における所得税額一七七四万七五〇〇円(別紙6の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(三通)

一  証人永野紀吉に対する当裁判所の尋問調書

一  高橋治則、永野紀吉(不同意部分を除く)の検察官に対する各供述調書

一  大庭三喜男、鈴木紳介、大武幸夫、嶋田邦一、永野紀吉(二通・いずれも不同意部分を除く)、碓井良子、碓井寛、碓井啓子、碓井千代子、桧山芙美子、野網良利、野網英二、野網眞砂子、碓井昭子、戸澤正、野網公子、碓井学、碓井智、碓井秀爾、碓井和子、野網周一郎、田中大丸の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の有価証券売買益調査書(不同意部分を除く)、有価証券取引帰属報告書(不同意部分を除く)、有価証券の売買回数及び売買株数調査書、支払利息調査書、支払手数料調査書、給与収入調査書、給与所得控除調査書、社会保険料調査書、生命保険料調査書、配偶者控除調査書、源泉徴収税額調査書、領置てん末書

判示第一の事実について

一  押収してある昭和六一年分の所得税確定申告書一袋(平成四年押第七四六号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の有価証券取引税調査書

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の配当収入調査書、配当控除調査書

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも情状により同条二項を適用した上、懲役刑及び罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金七〇〇〇万円に処することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、三年度にわたり株取引益を中心とした所得について所得税を免れた事案であるが、その所得税ほ脱額は、昭和六一年分が約三億二二三七万円余、同六二年分が約一億五四九万余、同六三年分が約一七七四円余で、合計すると約四億四五六一万円に上り、その額は、個人の所得税脱税事案としては多額の方に属する。また、ほ脱率も、三年分通算して一〇〇パーセントに近いものであり、その上、本件ではほ脱所得の大部分を成している株取引益については、当初からほ脱のため家族、親族等の多数の名義を使用して株取引を行うなど、ほ脱の意思は積極的であり、かつそのほ脱のため取られた手段もよくない。そうすると、本件における犯情は悪いといわねばならない。

一方、被告人が株取引益について税を免れようとしたそもそもの契機は、コンピューターソフトのシステムエンジニアとしての夢を実現すべく八〇名ほどの同志と、それまで勤務していた会社を退職し新会社を設立して独立した際資金援助を受けた人物との間に、その後経営方針等をめぐって確執が生じ、同人の影響を排除すべく同志たちと種々対抗策を練る過程において、同人からの株引取りや別会社への集団移籍などその対抗策実現のための資金を作る必要に迫られ、同志の代表格であった被告人が、偶々知人の好意で株取引でその資金を作ることとなり、その知人から大量の特定銘柄の株を譲り受け、それを売却して利益を上げ、その利益については税金を払うことなく対抗資金として蓄えようとしたというものであって、それが、本件脱税のうち大きな割合を占める昭和六一年の多額の株売却益についての脱税につながるのであり、いわば同志を代表して同志全体のための資金作りを行ったといえるのであり、純粋に個人的な蓄財を目的とした場合とは異なり、この点では酌むべき事情があるといえる。しかしなお、右特定銘柄の株売却により多額の利益を得、それなりの資金を確保しながら、その資金を前記対抗策実現のため活用したりあるいはその活用のため特別に留保するということもなく、引き続き昭和六二年、六三年にわたって、その確保した資金を投入して証券会社の担当者に運用を一任する形で株取引を継続し、脱税を重ねるに至ったのは、被告人の考えに安易なところがあり、前記同志全体のための対抗資金の確保という当初の動機がどこまで貫かれていたのか疑問であり、その色彩は失われていったものと評せざるを得ないのであり、前記酌むべきところが減殺されるといえる。

被告人は、本件脱税について率直に反省し、脱税した税金の納付については、換金できるすべての個人資産を処分して資金を作り、鋭意努力して現在まで二億九三四九万円余りを納付しており、今後も納付に努める旨述べている。そして、被告人は、これまでコンピューターソフトのシステムエンジニアとして身を捧げ、その人柄をもって人を引きつけてコンピューターソフト開発事業の発展に寄与するなど、一定の社会的貢献を果してきているのである。

以上の各情状及び弁護人主張のうち斟酌すべき事情を含めその他諸般の事情を総合して勘案すると、被告人のため酌むべきところがあるとはいえ、やはり脱税額が大きく、その未納付分がいまだかなり残っていることや、脱税事犯に対する処罰の均衡からして、被告人に対しては懲役刑の実刑に処するのもやむを得ないと思科し、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役二年及び罰金一億三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 朝山芳史 裁判官渡邊英敬は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松浦繁)

別紙1 所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2

脱税額計算書

<省略>

別紙3 所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙4

脱税額計算書

<省略>

別紙5 所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙6

脱税額計算書

<省略>

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